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おはなしの小道 TALES PASSAGE

『子どもに贈る昔ばなし』より 第5話 軽業どんと医者どんと神主どん

  軽業どんと医者どんと神主どん(新潟)

 むかし、あるところに、軽業どんと医者どんと神主どんがいました。
 軽業どんは、村の観音さまのお祭りで、どうしたことか、高いところから落ちて死んでしまいました。医者どんは、かぜをひいたのがもとで死んでしまいました。神主どんは、荒神さまのお祭りで、食べたもちがのどにひっかかって死んでしまいました。

 三人はつれだって、めいどの旅にでかけました。三人は閻魔さまの前に出ると、まず、軽業どんがいいました。
「閻魔さま、わたしは娑婆にいるときは、軽業を見せて、娑婆の人間をうんとよろこばせました。わたしは、極楽へやってもらえますよね」
「そうはいかん。おまえは、いつもへたくそな軽業ばっかり見せていたではないか。そのうえ、娑婆の人間から、やたらにぜにを取っていた。地獄行きに決まっておる」 
 つぎに、医者どんがいいました。
「閻魔さま、わたしは娑婆にいるときは、病気をみてやって、娑婆の人間をうんと助けてやりました。わたしは、極楽へやってもらえますよね」
「そうはいかん。おまえは、いつもろくに手当もしなかったし、病名をまちがったりして、そのために死んだ人間もあるではないか。そのうえ、娑婆の人間から、やたらにぜにを取っていた。地獄行きに決まっておる」 
 おしまいに神主どんがいいました。
「閻魔さま、わたしは娑婆にいるときは、神さまの祭りをしたり、神さまと話したりして、娑婆の人間をうんと助けてやりました。わたしは、極楽へやってもらえますよね」
「そうはいかん。おまえは、護符をなめさせるだの、はらいたまえ、きよめたまえだの、やくびょう神を追っぱらうだのと、うそばっかりいって人をだましていたではないか。そのうえ、娑婆の人間から、やたらにぜにを取っていた。地獄行きに決まって」

 こうして三人とも、閻魔さまから、地獄行きを申しわたされました。
 地獄では、三人を大がまの中へほうりこむことになっていました。大がまの中には、お湯が、ぐゎらん、ぐゎらんとにえくり返っていました。おっかなそうな鬼が、
「さあ、おまえら三人とも、この大がまでにてしまうぞ」といいました。
(これはこまったことになった。どうしたものか)と、三人は顔を見あわせました。そのうち、神主どんが、
「心配はいらん。おれにまかしておけ」といって、むにゃむにゃと、となえごとをいいました。三人は大がまの中へ入れられましたが、あついお湯が、たちまちのうちにぬるくなりました。神主どんは、火もどしの法をつかったのです。
「これは、ちょうどよい湯かげんだ。だんだんとぬるくなるから、もっと火をたけ、もっと火をたけ」と、大いばりでいい気になって長湯をしていました。これには鬼どももあきれかえって、
「こら、おまえら、いつまで入っているつもりだ。あとがつっかえてこまるではないか」といいました。三人が、もっと火をたけ、もっと火をたけと、湯をたかしているうちに、地獄のたきものがなくなってしまいました。それを聞いた閻魔さまは、
「よし、それでは、剣(つるぎ)の山へ追いやれ」といいました。三人は、剣ばかりはえている山へ、はだしで追いやられることになりました。
(これはこまったことになった。どうしたものか)と、三人は顔を見あわせました。そのうち、軽業どんが、
「心配はいらん。おれにまかしておけ」といいました。そして、ふたりをひょいとかたに乗せて、
 
  よい、よい、よいやさのさ
  右のかたには神主どん
  左のかたにはお医者どん
  こらさ、こらさ、こらさのさ

と、おもしろく歌いおどりながら、剣の山をひょいひょいと歩いていきました。そして、山の頂上に着くと、あたりのけしきをながめまわしていました。これには、鬼どもも、すっかりこまってしまいました。それを聞いた閻魔さまは、
「けしからんやつどもだ。おれの前へすぐにつれてこい。おれが、じきじきにしまつしてやる」といいました。

 三人は、閻魔さまの前に引きずり出されました。閻魔さまは、
「おまえらのようなやつは、おれが、がりがりっとかんでのんでやる」と、おこっていいました。
 そのとき、医者どんが、閻魔さまの口の中へ、ぴょいととびこみました。閻魔さまが、がりっとかもうとしたら、もうはらの中へするすると入ってしまいました。
(しまった、まるのみにしたか)と思っていると、こんどは軽業どんが、閻魔さまの口の中へ、ぴょいととびこんでしまいました。がりっとかもうとしたら、するするとはらの中へ入ってしまいました。
(しまった、こいつもまるのみにしたか)と思っていると、また、神主どんが、ぴょいととびこんでしまいました。はらの中で、また三人がいっしょになりました。
(こんどというこんどは、ほんとうにこまったことになった)と、三人は思いました。

 そのうちに医者どんが、
「今度は、おれがおまえさまがたを助けるから、心配はいらん」といいました。そして、薬を取りだして、閻魔さまのはらの中に、べたん、べたんとはりつけました。すると、たちまち閻魔さまのはらがいたみだしました。閻魔さまはがまんができなくなって、べんじょへとんでいきました。ううんとひとつりきんだら、しりのあなから軽業どんがひょいととび出しました。もうひとつ、ううんとりきんだら、神主どんがひょいととび出しました。あとにのこったのは医者どんひとり。しりのあなをとじられてはたいへんと、ありったけの薬を、べたん、べたん、べたんとはりつけました。閻魔さまが、
「これはたまらん。いたい、いたい」と、もうひとつ、ううんとりきんだら、おしまいに、医者どんがひょいと、とび出しました。

 とうとう閻魔さまは、三人に申しわたしました。
「おまえらのようなもんは、もはや地獄におくことはならん。もとの娑婆へさっさと帰れ。軽業は軽業になれ。医者は医者になれ。神主は神主になれ」
 そして、三人は、もとの娑婆へもどされたということです。

『子どもに贈る昔ばなし5 千葉笑い(小澤昔ばなし研究所、2006年)より

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