Web子どもと昔話 ││ 昔話の道しるべ │ おはなしの小道


おはなしの小道 TALES PASSAGE

『子どもに贈る昔ばなし』より 第4話 黒いさくらんぼ

  黒いさくらんぼ(スイス・レートロマン)

 昔むかし、あるところに、三人の息子をもった父親がいました。上のふたりはごうまんでいじわるでしたが、すえの息子は、だれに対してもれいぎ正しく、しんせつでした。

 さて、この国の王さまには、ひとりむすめがありました。王さまは、この王女をたいへんかわいがっていました。
 あるとき、王女が病気になりました。医者は、
「王女さまの病気は、黒いさくらんぼを食べさせなければなおりません」といいました。そこで王さまは、
「黒いさくらんぼを持ってきて王女の病気をなおした者を、王女のむこにする」というおふれを出しました。

 ところで、三人の息子の父親は、冬のさなかに黒いさくらんぼのなる木をもっていました。そこで父親はこのおふれを聞くと、黒いさくらんぼをかごいっぱいにつんで、
「これを王女のために王さまのところへ持っていけ」と、一番上の息子にわたしました。

 一番上の息子は、そのさくらんぼを持って、王さまのお城に向かいました。とちゅうにいずみがあって、そのわきにひとりの老人がすわっていました。老人は、一番上の息子に、
「そのかごの中には、何があるのかね」と、たずねました。
「やぎのくそさ」と、一番上の息子は答えました。
王さまのお城に着くと、門番は、
「なんの用だ」と、ききました。一番上の息子が、
「王さまに黒いさくらんぼをひとかごさしあげたいのです」と答えると、門番は、すぐに王さまのところへつれていってくれました。
 ところが、王さまの前で一番上の息子がかごの中身を金の皿にあけると、出てきたのはやぎのくそでした。王さまはたいそうおこって、一番上の息子をひどくむちで打たせました。一番上の息子はやっとの思いで家にたどり着きました。

 父親は、もういちど黒いさくらんぼをかごいっぱいにつんで、二番めの息子に、王さまのところへ持っていくようにとわたしました。二番めの息子は、そのさくらんぼを持って王さまのお城に向かいました。とちゅうにいずみがあって、そのわきにひとりの老人がすわっていました。老人は、二番めの息子に、
「そのかごの中には、何があるのかね」と、たずねました。
「ぶたのくそさ」と、二番めの息子は答えました。
やがて王さまのお城に着きましたが、門番はなかなか通してくれませんでした。なんどもたのんで、やっと王さまのところへつれていってもらいました。ところが、王さまの前で二番めの息子がかごの中身を金の皿にあけると、出てきたのはぶたのくそでした。王さまはたいそうおこって、前よりもっとひどく二番めの息子をむちで打たせました。二番めの息子はやっとの思いで家にたどり着きました。

 父親は、もういちど黒いさくらんぼをかごいっぱいにつんで、すえ息子に王さまのところへ持っていくようにとわたしました。すえ息子が、さくらんぼを持っていずみのところへやってくると、そのわきにひとりの老人がすわっていました。老人は、すえ息子に、
「そのかごの中には、何があるのかね」と、たずねました。
「黒いさくらんぼです」と、すえ息子は答えました。
「おじいさんも、めしあがりますか」
これを聞くと、老人はいいました。
「お前さんは正直だから、三つの忠告をしてあげよう。おなかがすいている者を見たら食べ物をあげなさい。かわきに苦しんでいる者を見たら水をあたえなさい。あらそっている者を見たらなかなおりさせてあげなさい。この忠告にしたがえば、おまえさんは幸せになれるよ」
すえ息子は、老人にお礼をいって、また歩きだしました。
 とちゅう、森のなかでありのすをみつけました。ありは何も食べる物がなく、おなかをすかせていました。そこですえ息子は、ポケットに入っていたパンのかけらをありに投げてやりました。
 それからまた旅をつづけて、ある湖にやってきました。いっぴきの魚が湖のほとりに打ち上げられて、のどのかわきに苦しんでいました。そこですえ息子は、魚を水の中へもどしてやりました。
 また旅をつづけていくと、平野のまん中で、天使と悪魔が火花をちらしてたたかっていました。そこですえ息子は、ふたりをなかなおりさせました。

 また旅をつづけて、ようやくお城に着くと、門番はすえ息子を中へ入れてくれませんでした。今までふたりもいたずら者がやってきて、だまされてしまったというのです。けれどもすえ息子が黒いさくらんぼを見せると、すぐに王さまのところへつれていってくれました。すえ息子は黒いさくらんぼを金の皿にあけました。それを食べると、王女はたちまち元気になりました。
ところが王さまは、王女とすえ息子を結婚させようとはしませんでした。それどころか、らい麦と大麦を升いっぱいずつまぜ、
「これを三時間いないにより分けろ」と、命じました。そこですえ息子は、ありのすのところへ行き、
「らい麦と大麦を分けてくれ」と、たのみました。ありは、あっというまにより分けてくれました。それですえ息子はきめられた時間に、王さまのところへらい麦と大麦を持っていくことができました。
 王さまは、それでもやくそくを守ろうとしませんでした。そして、ふたつめの課題をあたえました。それは、王女が一年と一日前に、湖の中に落とした指輪をさがしだせということでした。すえ息子は、湖へ行って魚をよびだし、
「王女がなくした指輪をさがしてくれ」と、たのみました。魚は深くもぐっていき、しばらくすると、指輪を口にくわえてあがってきました。それですえ息子は、指輪を王さまにわたすことができました。
 ところが王さまはそれでもまんぞくせず、すえ息子にみっつめの、もっともむずかしい課題を出しました。それは、天国の一番きれいな花と、地獄の一番あつい火を持ってこいということでした。
 すえ息子は山に登り、雪と氷をよじ登って天国に着きました。そして、前に悪魔となかなおりさせた天使をよび、
「天国の一番きれいな花をつんできてくれ」と、たのみました。天使は、すえ息子のために、天国の一番きれいな花をつんできてくれました。それからすえ息子は、暗い森を通ってずんずんおりていき、とうとう地獄に着きました。そして、前に天使となかなおりさせた悪魔をよび、
「地獄の一番あつい火を持ってきてくれ」と、たのみました。悪魔は、すえ息子のために、地獄の一番あつい火のたいまつを持ってきてくれました。すえ息子は、天国の一番きれいな花と地獄の一番あつい火を王さまのところへ持っていきました。そこで王さまも、とうとう結婚をゆるさないわけにはいかなくなりました。

 すえ息子は王女と結婚し、いっしょう幸せにくらしました。

『子どもに贈る昔ばなし4 黒いさくらんぼ(小澤昔ばなし研究所、2006年)より

BACK    NEXT
Web子どもと昔話 ││ 昔話の道しるべ│ おはなしの小道
topへ