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おはなしの小道 TALES PASSAGE

『子どもに贈る昔ばなし』より 第2話 そうめんじぞう

  そうめんじぞう(栃木県氏家町)

 昔むかし、氏家(うじいえ)の勝山城に左衛門尉(さえもんのじょう)という殿さまがいました。殿さまは、とてもしんじんぶかく、毎年毎年日光の二荒山大明神(ふたらさんだいみょうじん)へおまいりしていましたが、ある年のこと、わけあって、どうしてもおまいりに行けなくなってしまいました。そこで、殿さまは堂原(どうっぱら)の地蔵堂のぼうさまに、
「かわりにおまいりに行ってこい」といいました。殿さまのかわりにおまいりに行くということは大役(たいやく)だったので、ぼうさまは気をひきしめて日光へとでかけました。

 日光でぶじにおまいりをすませたぼうさまはひと安心しました。すると、とたんにおなかがグーとなりました。朝から何も食べていなかったのです。しきりにはらの虫は鳴くし、日はくれるし、その上、日光といっても町はずれで家一けんみつからず、なんともこまってしまいました。歩いていくと、お寺があったので、中に入り、
「旅のぼうずです。はらがへって歩けません。何でもいいから、どうか一ぱい食べさせてください」とたのみました。その寺のぼうずどもは、
「やあ、ひさしぶりにいじわるができるぞ」と、おおよろこびでぼうさまを中にいれました。そして椀(わん)いっぱいのそうめんをぼうさまに出しました。
「こりゃあけっこうなごちそうだ」と、ぼうさまはぺろっとたいらげて、
「ああ、うまかった。ごちそうさんでした。それじゃ急ぎますんで」と帰ろうとしました。寺のぼうずどもは、
「そんなこといわないで、もうちょっと」と引き止め、やまもりのそうめんを持ってきました。ぼうさまはことわっては悪かろうと、むりしてぜんぶ食べ、
「ごちそうさんでした。それじゃ」と帰ろうとしました。すると、
「まあまあ、そういわないで、もういっぱい」と、いじわるぼうずどもは、よってたかってぼうさまを引き止めて、どんつかどんつか、てんこもりのそうめんを持ってきました。ぼうさまは、ふりきって帰ろうとしましたが、いじわるぼうずどもは、今度はぼうさまをおさえこんで、
「それ食え、やれ食え」とせめたてました。ぼうさまは、これはとんでもないところに来てしまったと思いましたが、いまさらどうすることもできません。まんぷくの太鼓腹(たいこっぱら)ははりさけそうでした。

 さて、堂原のお地蔵さまは、いつもお堂を守っているぼうさまがとんださいなんにあっているのを感じとりました。さっそく、小ぼうずにすがたをかえて、お堂を出ると、あっというまに日光のお寺に着きました。中に入り、
「はらがへって歩けません。なんでもいいから、どうか一ぱい」とたのみました。いじわるぼうずどもは、おおよろこびで、小ぼうずを中に入れると、またそうめんをやまもりにして持ってきました。小ぼうずはそれをぺろっとたいらげて、
「はい、おかわり」と、椀を出しました。いじわるぼうずどもは、またまたてんこもりにして、ニはい、三ばい、四はい、五はい、六ぱいと持ってきました。小ぼうずはぜんぶぺろっとたいらげて、
「はい、おかわり!」と、椀を出しました。いじわるぼうずどもも負けてなるものかと、てんこもりのそうめんを持ってきましたが、小ぼうずは、うまそうに、
「つるつる、ぺろりん、つるぺろん、はい、おかわり」
「つるつる、ぺろりん、つるぺろん、はい、おかわり」
十ぱい、二十ぱい、三十ぱい食べても平気です。百っぱい、二百っぱい、三百っぱい。かわいい顔をした小ぼうずが、うまそうに食べつづけます。いじわるぼうずどもはあきれかえり、そのうちきみが悪くなって、ついには、おそろしくなりました。小ぼうずは、ぜんぶたいらげると、すました顔で、
「ごちそうさんでした」といって、太鼓腹のぼうさまをつれ、堂原の地蔵堂へ帰っていきました。

 いじわるぼうずどもがぽかんとしていると、そこへひとりの木こりがまっさおになってかけこんできました。
「たいへんだ。うらの谷が、そうめんでいっぱいだあ」
いじわるぼうずどもがあわてて行ってみると、うらやまの谷がまっしろいそうめんでびっしりうまって、あとからあとから流れてきます。
「これはどうしたわけだ、これじゃあ、寺までおしながされてしまう」
いじわるぼうずどもは、たまげていましたが、やがて、
「さっきの小ぼうずは、お地蔵さまにちがいない」
と気がつきました。そして、いじわるぼうずどもも自分たちの悪いことに気がついて、それっきりいじわるをしなくなったそうです。

 それから、その谷は「そうめん谷」とよばれるようになり、堂原のお地蔵さまも「そうめん地蔵」とよばれるようになりました。

『子どもに贈る昔ばなし2 さぎしょっぱらのたぬき』(小澤昔ばなし研究所、2005年)より

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