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おはなしの小道 TALES PASSAGE

第2話 灰かぶり(シンデレラ)

   ある金持ちの男の妻が、病気になりました。妻は、自分の命のおわりが近づいてくるのを感じると、ひとりむすめをよんでいいました。
「信心ぶかく善良にくらすんだよ。そうすれば愛する神さまがいつも助けてくださるから。そしてお母さんは天国からおまえのことを見おろし、いつもおまえのそばにいるからね」
そういったかと思うと、母親は目をとじて、息をひきとりました。むすめは毎日お母さんのお墓にいき、そこで泣いては、信心ぶかく、善良にくらしていました。雪がお墓に白いきれをかぶせました。そしてお日さまがふたたびその雪をぜんぶとかしてしまったころ、お父さんは二度めの妻をめとりました。
 
 この妻にはふたりのむすめがあって、いっしょにつれてきました。むすめたちは顔は美しくて白かったのですが、心はみにくい人たちでした。そのときからかわいそうなまま子にとっては、つらい日びがはじまりました。
「あの役たたずめは、このへやで、なにをしようっていうんだい」と、むすめたちはいいました。
「パンをほしいものは、まずはたらかなきゃならないんだ。あの子は台所の手伝いにしてしまおう」
そういってむすめたちは、まま子のきれいな着物をはいで、灰色の古い仕事着を着せました。そして、みんなでわらいものにして、台所へつれてきました。それからというもの、まま子はつらい仕事をしなければならなくなりました。朝はお日さまよりはやく起き、水を運び、火をおこし、煮物をし、せんたくをしなければなりません。そのうえむすめたちはあらゆることをいって、まま子の心をきずつけ、あざけりました。そして、エンドウ豆やレンズ豆を灰のなかにばらまき、まま子にすわって灰のなかから豆をひろわせたりしました。
 夜になってすっかりつかれていても、ベッドのなかにははいれず、かまどのわきの灰のなかに横になるほかありませんでした。そのためにいつもほこりまみれできたなかったので、むすめたちは、まま子のことを灰かぶりと名づけました。

 あるとき、お父さんが遠くの大きな市へでかけることになりました。お父さんは、ふたりのむすめにおみやげになにがほしいかとたずねました。
「美しい着物をちょうだい」と、ひとりがいいました。
「真珠と宝石をちょうだい」と、もうひとりがいいました。
「ところで灰かぶり、おまえはなにがほしい」と、お父さんがききました。
「お父さん。帰り道で、お父さんのぼうしにはじめてぶつかった若枝をとってきてください」と、灰かぶりは答えました。
 さて、お父さんはふたりのむすめのために、着物と真珠と宝石を買ってやりました。そして帰り道、みどりのやぶのなかを馬で走っているときに、ハシバミの若枝がさわり、ぼうしをはじきとばしました。お父さんは若枝をおりました。うちに着くと、ふたりのむすめには望みのおみやげをやり、灰かぶりにはハシバミの木の若枝をやりました。
 灰かぶりはそれをうけとると、お母さんのお墓にいって、若枝をお墓の上にうえました。そして、いつまでもいつまでも泣いていたので、なみだが落ちて若枝をぬらしました。ハシバミの若枝は、ぐんぐんのびて、りっぱな木になりました。灰かぶりは毎日三度木の下へいき、泣きながらおいのりをしました。そのたびに一羽の小鳥がハシバミの木にとんできて、灰かぶりがねがうものをなんでもだしてくれました。

 

 あるとき、王さまが盛大な宴会をもよおされることになりました。それは三日もつづき、王子さまの花よめをえらぶための会でした。ふたりのむすめもその宴会に招待されました。そこで、灰かぶりをよびつけていいました。
「わたしたちのかみをすいておくれ。そして靴をみがいて、靴のバックルをきちんととめておくれ。わたしたちは王さまの宴会にいくんだから」
灰かぶりはいわれたとおりにしました。けれども自分もダンスにいきたかったので泣きました。そしてまま母に、自分にもいかせてくれと、なんどもたのみました。
「灰かぶり、おまえはほこりだらけだし、いい着物は一まいも持っていない。それにダンスもできないじゃないか。それなのに宴会にいこうというのか」と、まま母はいいました。
 灰かぶりがそれでもたのみつづけると、とうとうこういいました。
「レンズ豆をひとはち、灰のなかにぶちまけるから、もしおまえがそれを二時間以内にぜんぶひろいだせたら、つれてってやろう」
まま母はそういって、レンズ豆を灰のなかにぶちまけました。灰かぶりは庭へでるうら木戸へいってさけびました。
「やさしいハトさんたち、それにキジバトさんたち、そして空にいる小鳥さんたち、みんなきてわたしの豆ひろいを手つだっておくれ」

  よい豆は はちのなかへ
  わるい豆は 自分のえさぶくろのなかへ

すると、台所の窓から白いハトが二羽まいこんできました。つづいてキジバトたちがきて、しまいには空にいるあらゆる鳥がバタバタと羽の音をさせてとびこんできて、灰のまわりにおりました。そしてハトたちは頭でこっくりこっくりしながら、コツコツコツコツと豆をついばみはじめました。するとほかの鳥たちもいっせいに、コツコツコツコツとついばみはじめました。そしていい豆はぜんぶまるいはちのなかへいれました。
 一時間もたたないうちに鳥たちは、みんな仕事をおえて、また窓からとびだしていきました。灰かぶりはのまるいはちを、よろこんでまま母のところへ持っていきました。きっといっしょに宴会にいかせてもらえると思ったのです。
 けれども、まま母はいいました。
「だめだよ灰かぶり。おまえは着物を持ってないじゃないか。それにダンスもできない。おまえをつれていくわけにはいかないね」
灰かぶりが泣くと、まま母はいいました。
「もし二はいぶんのレンズ豆を、一時間で灰のなかからきれいによりだすことができたらつれてってやろう」
まま母はそんなことはできるはずがないと思ったのです。そして、まるいはち二はいのレンズ豆を灰のなかにぶちまけました。灰かぶりは庭につづいているうら木戸のところへいってさけびました。
「やさしいハトさんたち。キジバトさんたち。そして空にいる小鳥さんたち、みんなきてわたしの豆ひろいを手つだっておくれ」

  よい豆は はちのなかへ
  わるい豆は 自分のえさぶくろのなかへ

すると、台所の窓から白いハトが二羽とびこんできました。つづいてキジバトがとびこんできて、しまいには空にいるあらゆる鳥が、バタバタと羽の音をさせてとびこんできて、灰のまわりにおりました。そしてハトたちは頭をこっくりこっくりさせて、コツコツコツコツとついばみました。するとほかの鳥たちもコツコツコツコツとついばみ、よい豆をぜんぶまるいはちへえらびだしました。三十分たつと、烏たちはみんな仕事をおえて、また窓からとんでいきました。灰かぶりはよろこんで、まま母のところへまるいはちを持っていき、こんどこそつれていってもらえるだろうと思いました。
 けれども、まま母はいいました。
「なんといったってだめだよ。おまえをつれていくわけにゃいかない。おまえは着物を持ってないじゃないか。それにダンスもできない。わたしたちが、はじをかかせられるのがおちだよ」
そういって、ふたりの実のむすめをつれてでかけてしまいました。家のなかがからっぽになると、灰かぶりはハシバミの木の下のお母さんのお墓にいって、大きな声でとなえました。

  木よ からだをゆすっておくれ
  金と銀をわたしに投げておくれ

すると、鳥が金と銀で織られた着物を投げおろしてくれました。そして金と銀でししゅうされた靴も投げおろしてくれました。灰かぶりはそれを着て宴会にでかけました。まま母とふたりのむすめは灰かぶりに気づかず、どこかよそのお姫さまにちがいないと思いました。灰かぶりはきれいな着物を着ると、それほどすばらしく見えました。まま母たちは灰かぶりだとは思ってもみません。灰かぶりはうちで灰にまみれて、すわっているものと思いこんでいたのです。

 王子さまが、灰かぶりのところへきてその手をとり、いっしよにダンスをしました。そしてもうほかのだれともダンスをする気がなくなり、ずっと灰かぶりの手をはなしませんでした。そして、だれかほかの男の人が灰かぶりにダンスを申しこもうとすると、王子さまは、
「この人は、ぼくとおどるんだ」と、いいました。
 ダンスは夜になるまでつづきました。灰かぶりはうちへ帰ろうとしました。けれども王子さまがいいました。
「ぼくもいっしょにいく。おともをするよ」
なにしろ王子さまは、この美しいむすめがどこの家の人なのか、ぜひ知りたいと思ったからです。けれども灰かぶりは王子さまの手からこっそりはなれて、ハト小屋にとびこんでしまいました。それで王子さまは、その家の父親が帰ってくるまで待っていました。そして父親に、知らないむすめがこのハト小屋にとびこんだと話しました。すると父親は、それはきっと灰かぶりにちがいないと思いました。父親たちはおのとつるはしを持ってきて、ハト小屋をたたきこわしてみました。けれどもなかにはだれもいません。 
 まま母たちがうちへ帰ってくると、灰かぶりはあのきたない着物を着て灰のなかによこたわっていました。うす暗い油のランぶがえんとつのなかでもえていました。灰かぶりはハト小屋からすばやくとびおりて、あのハシバミの木のところへいって、美しい着物をぬぎ、お墓にかけると、鳥がその着物を持っていきました。灰かぶりはもとの灰色の仕事着を着て、台所で灰の前にすわったのです。

 つぎの日、またあらためて、宴会がはじめられました。両親とむすめたちは、またでかけました。みんながでかけてしまうと、灰かぶりはまたハシバミの木のところまでいって、となえました。

  木よ からだをゆすっておくれ
  金と銀をわたしに投げておくれ

すると、鳥がきのうよりもっとりっぱな着物を投げおろしてくれました。灰かぶりがそれを着て宴会にいくと、みんなその美しさに目を見はりました。じつは王子さまは灰かぶりがくるのを待っていたのです。すぐに手をとって、灰かぶりとばかりダンスをしました。他の人たちがきて灰かぶりをダンスにさそうと、王子さまはいうのでした。
「この人は、ぼくとおどるんだ」
 夜になって灰かぶりがうちへ帰ろうとすると、王子さまもついてきて、むすめがどの家へ帰っていくか見ようと思いました。けれども灰かぶりは王子さまの手からのがれて、家のうしろの庭にとびこみました。そこには大きな美しいナシの木が、すばらしいナシをたくさんつけて立っていました。そのナシの木にあっというまにのぼってしまったのです。王子さまはどうやってのぼっていっていいかわかりません。そこでその家の父親が帰ってくるまで待って、父親にいいました。
「見知らぬむすめが、わたしの手からにげだしてしまった。そして、この木にとびのったように思うんだ」
父親は、それは灰かぶりにちがいないと思い、おのを持ってこさせて、その木を切りたおしました。けれどもその木にはだれもいませんでした。
 まま母たちが帰って、台所へいってみると、灰かぶりはいつものように灰のなかに寝ていました。灰かぶりはナシの木のべつのがわからとびおりて、ハシバミの木の鳥にあの美しい着物をかえして、自分の灰色の仕事着を着たのでした。

 三日め、両親とむすめたちがでかけてしまうと、灰かぶりはまたお母さんのお墓へいって、ハシバミの木にむかってとなえました。

  木よ からだをゆすっておくれ
  金と銀を わたしに投げておくれ

すると、鳥が着物を投げおろしてくれました。それはいままでだれも着たことがないような、すばらしい着物でした。そして靴はぜんぶ金でできていました。灰かぶりが宴会にいくと、みんなおどろきのあまり口もきけなくなりました。王子さまは灰かぶりとばかりおどりました。そしてだれかが灰かぶりをダンスにさそうと、こういうのでした。
「この人は、ぼくとおどるんだ」
 夜になると灰かぶりはうちへ帰ろうとしました。王子さまは、いっしょにいこうと思いました。けれども灰かぶりはその手をのがれて、いってしまいました。けれども灰かぶりは、左の金の靴をなくしました。というのは、王子さまが階段にタールをぬらせておいたので、靴がそれにはりついてしまったのです。王子さまはその靴をとっておいて、つぎの日靴を持って、あの男のところにいっていいました。
「この金の靴がぴったりあう人を、ぼくの妻にしたいのだ」
これをきくと、ふたりのむすめは大よろこびしました。ふたりともきれいな足をしていたのです。上のむすめがその靴を持ってへやへはいり、足にあててみました。お母さんがそばについています。けれどもむすめの足の指が長すぎてはけません。靴が小さいのです。するとお母さんが、むすめにナイフをわたしていいました
「足の指を切っておしまい。女王さまになれば、もう足で歩くことなんかないんだから」
むすめは足の指を切りおとし、むりに靴をはきました。そして、王子さまのところへいきました。王子さまは、このむすめを花よめと思って馬に乗せ、いっしょに帰っていきました。ふたりはお墓に立っているハシバミの木のそばをとおらなければなりませんでした。そこには二羽のハトがとまっていて、こううたいました。

  クックックー うしろを見てごらん
  靴のなかに血がでてる
  靴が小さすぎるんだ
  ほんとうの花よめは まだうちのなかにいるんだよ

これをきいて、王子はむすめの足を見ました。すると血がふきだしているではありませんか。それで王子は馬のむきをかえ、にせの花よめをそのうちへつれもどしていいました。
「これは、ほんとうの花よめではない。ほかのむすめに靴をはかせてみてください」
もうひとりのむすめがへやにはいりました。足の指はうまく靴にはいりました。けれどもかかとが大きすぎます。するとお母さんは、ナイフをわたしていいました。
「かかとをすこしちょんぎりなさい。女王になったら、もう足で歩くことなんかないんだから」
むすめはかかとをすこし切りとり、足をむりに靴につっこんで、外にいる王子のところへいきました。王子はこのむすめを自分の花よめだと思って馬に乗せ、いっしょにでかけました。ところが、ふたりがハシバミの木のそばをとおりかかると、二羽のハトが木にとまっていて、こううたいました。

  クックックー うしろを見てごらん
  靴のなかに血がでてる
  靴が小さすぎるんだ
  ほんとうの花よめは まだうちのなかにいるんだよ

王子はむすめの足を見ました。すると血が靴のなかからふきだしているではありませんか。白いくつしたの上のほうまで、すっかり赤くなっていました。それで王子さまは馬のむきをかえて、にせの花よめをまたかえしました。
「これはほんとうの花よめじゃない。ほかに、むすめはいないんですか」と、王子はいいました。
「いません」と、お父さんがいいました。
「ただわたしの亡くなった女房のむすめで、まだ小さなきたならしい灰かぶりというのがいます。でもこの子があなたの花よめになるはずがありません」
王子さまは、その子をつれてきてくれといいました。けれども母親は答えました。
「いえ、それはだめです。あの子はあまりにきたなすぎて、とても人前にはだせません」
けれども王子さまは、どうしてもその子に会いたいといいました。そこで灰かぶりがよびだされました。灰かぶりはまず手と顔をきれいにあらいました。それから王子さまの前にすすみでて、おじぎをしました。王子はむすめに金の靴をさしだしました。灰かぶりは左の足から重い靴をぬぎ、その金の靴をはいてみました。すると足はするっと靴のなかにはいり、まるで足にあわせた鋳型でつくったように、ぴったりあいました。そして灰かぶりが王子さまのほうに顔をあげると、王子さまはその顔を見てすぐに気づき、こういいました。
「これがほんとうの花よめだ」
まま母とふたりのむすめたちはおどろいて、いかりのためにまっさおになりました。けれども王子さまは、灰かぶりを馬に乗せてでかけました。ふたりがハシバミの木のそばをとおりかかると、あの二羽の白いハトがうたいました。

  クックックー うしろを見てごらん
  靴には血はないよ
  ほんとうの花よめがつれられていくんだ

二羽のハトはそううたいおわると、二羽ともとんできて、灰かぶりのかたにとまりました。いっぽうのハトは右かたに、もういっぽうのハトは左かたに、いつまでもすわっていました。

 

 王子さまとの結婚式がおこなわれることになると、あのむすめたちがきておべっかをつかい、灰かぶりのしあわせをわけてもらいたいと思いました。灰かぶりが教会へいくときには、上の姉は右がわに、下の姉は左がわについていきました。するとハトたちがそれぞれの目をひとつずつ、つついてとりました。そのあとみんなが教会からでてきたときには、上の姉が左がわ、下の姉が右がわに歩いていました。するとハトは姉たちののこりの目をつついてとってしまいました。こうしてふたりは、わるいことをしたことと、にせの花よめになったことで、目が不自由でくらさなければなりませんでした。
出典:小澤俊夫訳『完訳 グリム童話』(ぎょうせい)
※再録にあたって一部表現などを変更しました

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