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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第9回 寝太郎も一生寝ていたわけではない
 前回はグリム童話「ヘンゼルとグレーテル」が語る、変化しながら成長する子どもの姿について読んでいただきました。このようなメッセージを、昔語はたくさん発信しているので、今日の私たちにとっても考えるヒントとして貴重だと思います。
 日本中でひろく伝えられている昔話の一つに「寝太郎」という話があります。ある村に一人の若者がいた。ちっとも働かないで、寝てばかりいるので、みんなから「あいつは役立たずだ。寝太郎だ」とばかにされていた。親からも、「お前の仲間はみんなもう一人前に働いているんだから、お前も働け」と言われるが、若者は寝てばかりいた。そうやって何年か過ぎた。ある日、若者はむっくり起き上がって町へ出かけていった。そして鳩と提灯を買って帰ってきた。夜になると、若者は鳩と提灯を持って隣の長者の松の木によじ登り、大声で叫んだ。
「長者よ、よく聞け。われこそは鎮守の森の神様である。今夜はお前の家の家運を予言しにやってきた」
 長者は夜中に大声が聞こえたので、何事かと思って庭へ出てみた。すると暗闇から声だけが聞こえてきた。
「お前の家の一人娘に、隣の寝太郎を婿にとらなければ、お前の家の家運はたちまち傾くであろう。よいか、わかったか。では予は鎮守の森に帰るぞ」
 寝太郎はそう言って、提灯に灯りをつけ、鳩の足に結びつけてパッと放した。長者は「鎮守の森へ帰るぞ」と聞こえたとたんに灯りがすーっと鎮守の森の方へ飛んでいったので、すっかり本気にしてしまった。翌朝起きるとすぐに寝太郎のところへ行った。
 寝太郎はまだ寝ていたが、「寝ている場合じゃない。鎮守の森の神様のご命令だから是非うちの一人娘の婿になってくれ」と頼んだので、とうとう寝太郎が長者の家の婿になった。
 私は、この話を福島県で笑い話として聞いたことがあります。この話を真面目に考えたら、結婚詐欺というか、脅迫というか、ひどい話です。しかし昔話は、途中でいろいろなことがあっても、話のゴールで主人公が幸せになることが重要です。途中の出来事に一つ一つ道徳的判断を加えていったら、昔話の八割は不合格になるでしょう。
 私は、この話は二つのメッセージを発していると思うのです。一つは、「若者は若いとき眠っていても、途中で起きる。一生眠っているわけではない」ということ。もう一つは、「若者はたっぷり眠ったからこそ、あとでいい知恵が出せたのだ」ということです。
 おとなになってしまうと、自分が若い頃眠くてしようがなかったことを忘れてしまいます。昔話は、個人が忘れたことを、民族の記憶としておぼえていてくれるものだと思うのです。
UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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