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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第5回 昔話は同じ場面は同じ言葉で語る

白雪姫」の女王は、白雪姫を探しに三回変装してでかけます。そして白雪姫は、こびとたちの忠告にもかかわらず、女王を家の中へ招き入れて、殺されます。一回目はひもで、二回目は毒のくしで、三回目は毒のりんごで。つまり、同じような場面が三回繰り返されるのです。
 グリム兄弟は、口伝えの昔話を本で読む昔話に再語するに際して、この同じ場面を、ほとんど同じ言葉で繰り返しています。この再話法は、二〇世紀に私たちがもっている昔語の文芸理論からみて全く正しいやり方でした。昔話は、同じ場面が出てきたら、同じ言葉で語るものなのです。
 グリムだけではありません。例えば日本のすぐれた語り手たちも、同じように語っているのです。「猿婿入り」という目本の昔話では、父親が、田に水を入れてくれた猿に三人娘のうち一人を嫁にやると約束してしまう。帰宅した父は、娘が猿の嫁に行ってくれるだろうかと心配で、床から起き上がれない。そこへ長女が来て、「父ちゃん、飯食いなよ」と言うと、父は「いや、食いたくない」と答える。長女が「なぜだい」と聞くと、父は今日あったことを話す。長女は「誰が猿のところへなんか嫁に行かれるか」と言って、枕をけとばして行ってしまう。
 語り手は、次女が来て父とやりとりする場面をほとんど同じ言葉で語ります。三女も初めは同じやりとりをし、嫁に行くことを承諾するところだけが異なります。
 三回目は一、二回と少し異なり、しかも最も重要なのですが、このことは次回に詳しく書くとして、第一、二回目及び第三回目の前半が、同じ言葉で繰り返されていることに注目してください。
 昔話は口伝えされてきた物語なので、一回出てきた言葉を二回、三回と使うことは流れる時間の中で、出来事をくっきりと脳裡にイメージとして浮かびあがらせる大切な方法です。音楽でも、同じメロディーが二度出てこない曲はありません。やはり流れる時間の中で印象深く聞いてもらうためです。
 子どもは、もうよく知っているお語をまた聞かせてくれと言ったり、よく知っている絵本を毎晩読んでくれと言ったりします。子どもは、もう知っているものとまた会うことを求めているのです。
 未知なるものへの好奇心。それはひとを駆り立てるような喜びです。それに対して、既知なるものとの再会の喜び。それはひとに安らぎを与えるような喜びです。昔話はその両方を読者や聞き手に与えてくれます。だからこそ、昔話なんていうものが、長い年月、どの民族の中でも忘れられないで語り継がれてきたのだと思います。その形をこわさないで、次の世代に渡すのが今のおとなの責任ではないでしょうか。
UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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