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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第46回 お話が子どもをとらえるための条件
 昔話はなぜ子どもをとらえるのか、という問題を、前々回では、昔話が文芸としてもっている表現上の仕掛けと構成という面からみました。前回では、昔話を伝える人間の生の声の力というものに着目してみました。次にここでは、子どもたちが昔話を聞く場所ということに着目してみたいと思います。
 かつて農村で昔話が日常的に語られていた場面を振り返ってみると、それは主として、冬の夜に、囲炉裏端で語られてきたのでした。そもそも、「夏むかしは語るな」といわれてきたところもあります。夏は労働の季節です。全体が動いていて落ち着きません。静かな冬がいいのです。また「昼むかしは語るな」という言い方もありました。昼は労働の時間です。ざわざわしていて落ち着きません。
 このふたつの言葉を合わせると、昔話を語るのは冬の夜ということになります。その心は、落ち着いた、静かな雰囲気において語れということです。
 学校教育の場で考えれば、冬の夜というわけにはいきません。しかし、その心を汲んで、落ち着いた、静かな雰囲気のなかで語ろうと考えれば、不可能ではありません。
 まず部屋は、なるべく小さな部屋が望ましいのです。そして人数もなるべく少人数がいいです。実際的に考えれば、ひとクラスの人数が普通の教室で話を聞くのがいいのです。一学年全員を体育館に座らせて聞く、というのはそもそも無理な計画です。子どもは聞きません。体育館で全員に聞かせてみて、聞かなかったからといって、やっぱり子どもは昔話なんか聞かないよ、というのは、はじめから聞ける状態にしていないのですから、計画のほうの失敗なのです。子どものせいではありません。
 普通の教室で落ち着いた雰囲気をつくるために、廊下向きの窓とか、校庭向きの窓には、カーテンを閉めてください。外が見えると気が散るのです。友だちが通ると手を振ったりして、お話から離れていってしまうものです。
 カーテンを閉めると、部屋の中がすこし薄暗くなるでしょう。これもお話を聞くためには、とてもいいことです。昔の「夜むかし」とまではいかなくとも、すこし暗いと落ち着くのです。
 ここまで準備ができたら、あとは静かさの確保です。と言っても語り手が語りだす前に、「静かにしろ!」と先生が大声をあげる必要はありません。無理に静かにさせなくても、語り手が語りだせば、子どもたちはだんだんに耳をそばだて始めます。その間、二、三分でしょう。
 後ろの方で、ごそごそしているのがいても、ほっといてください。聞いていない振りをして、じつは聞いている子が多いのです。




UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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