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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第37回 短い話から語ってみてはどうでしょう
 これまでの連載で、昔話とはどういうものであるか、おおよそわかっていただけたと思います。そこで今度は、先生方に、実際にお話を声に出して、子どもたちに聞かせる試みをしていただきたいと思います。とは言っても、いきなり長い話をきちっと覚えて語るのは難しいと思うので、短い話で、声に出す練習をしてみてはいかがでしょうか。
 わざわざ覚えなくとも、すぐ頭に入るような話も、じつはたくさんあるのです。
 子どもの前でしゃべるのは教師の仕事ですから(私も四五年間してきましたが)誰でもできることですが、何も見ないで、持たないでお話を語るということは、ふだんの教室での授業とは、すこしちがうことだと思います。
 違いの第一は、本を読むのではないということ。違いの第二は、教材としてのお話ではないということです。ただただ、楽しむためのお話です。聞かせたあとは、おかしい話なら先生もいっしょに笑っていればいいのです。いわんや、感想など聞く必要はありません。
 例えば、こんなのはどうでしょう。
 むかし、あるところに、なんでもすぐ忘れてしまう、わすれんぼの男の子がいた。ある日のこと、男の子は、隣村のおばさんのところへ遊びに行った。楽しく遊んでいると、おばさんは、おやつに、なんだか丸くて甘い、おいしいものをこしらえてくれた。男の子は、おいしくていくつも食べた。そして、おばさんに、「これ、おいしいね、なんていうもの?」ときいてみた。するとおばさんは、「これはな、団子というもんだ。うまかったろう。おまえの母さんもうまい団子こしらえるのが上手だから、うちへ帰ったら、こしらえてもらうといいよ」と言った。男の子は帰り道、忘れないように、「だんご、だんご、だんご」と唱えながら歩いていった。途中に小川があった。男の子は、「どっこいしょ」と掛け声をかけて川を飛び越えた。そして、「どっこいしょ、どっこいしょ、どっこいしょ」と唱えながらうちへ帰った。
 うちに着くと、すぐ母ちゃんに、「母ちゃん、どっこいしょこしらえてよ」と言った。
「どっこいしょ?どっこいしょなんて知らないねえ」
「すごくうまかったよ。おばさんが、かあちゃんもうまいどっこいしょをこしらえられるって、言ってたよ」
「知らん、知らん」
 男の子は「知ってる、知ってる」と言って騒ぎ出した。あんまりうるさいので母ちゃんは、「うるさい!そんなもの、わたしゃ知らんよ」と言って、そばにあった薪で男の子の頭をぶった。頭にこぶができて、男の子は「わあー」と泣き出した。母ちゃんは、「あんまり騒ぐから、頭に団子みたいなこぶが出たじゃないか」と言った。すると男の子は、「あ、団子だ、団子だ」と言いましたとさ。
 これは日本中でよく知られた、ひとくちばなしです。「どっこいしょの話」とよばれています。ご存知の読者もおられるでしょう。
 他愛ない話ですが、どっこいしょという掛け声が印象的で、一度聞いたら覚えてしまう話です。昔の人は、頭を薪でぶつのが暴カ肯定だからいけない、などとは考えませんでした。おおらかに笑い飛ばしてかまわないのです。昔話には、そういう逞しさがあります。






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