Web子どもと昔話 ││ 昔話の道しるべおはなしの小道


昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第32回 昔話を語る場の設定
 近頃、学校に語り手を招いて、子どもたちに昔話や創作のお話を語ってもらうケースが増えてきました。子どもたちが昔話を楽しんで聞ける機会を作ることは、とてもいいことだし、大切なことだと思います。ところが、そうした場の設定が適切でない場合が多々あるようなので、その問題を考えてみます。
 まず、農村での伝承的な昔話の語りの場を参考にしてみましょう。昔話は主として、冬の夜長に、囲炉裏の火を囲んで語られました。聞き手は1〜3人くらいで、その家の孫とか、近所の子などです。語り手にとってよく知っている子どもたちでした。そして当然、静かな場でした。語り手は、大げさな身振りや手振りをするわけでもないし、派手な声色を使うわけでもありませんでした。
 しかし、話の内容はしっかり覚えていました。自分が子どものときに、さんざん聞かされた話なので、言葉ははっきり覚えていました。聞きながら目の前に想い浮かべたその場面を、今度は自分が目の前に想い浮かべながら語るのです。だから、聞き手にもそれぞれの場面がはっきり伝わります。したがって、聞き手である子どもたちは、話に引き込まれて聞くのでした。
 このような伝承の語りの場から学ぶことが、今日、語りの場を設定するにも決定的に重要だと思います。もちろん、昔と今とでは、どうしようもない違いがあるのは事実です。一方、今でも同じく重要だと言える面があるのも事実です。分けて考えてみましょう
 どうしようもない違いがある点。@囲炉裏はない、A聞き手の人数は、はるかに多い。B図書館や家庭文庫では、語り手にとって知らない子がたくさんいる。
 こうして整理してみると、語りの場を構成している要素はみな違ってきてしまっているのです。それにもかかわらず、以下の条件は、重要で、今でも守らなければならない条件です。@静かであること。語りを聞くということは、言葉だけで聞いて、自分の頭の中にその情景を想い浮かべることです。言葉をひとつ聞き漏らしただけでも、情景を想い浮かべられなくなってしまうので、子どもたちに静かさを保障してやることは、おとながまず第一に心がけるべき事柄です。
 ところが、学校へ語りに行った現代の語り部たちからよく聞かされるのは、「子どもたちが話に引き込まれてきたころに、クラス担任の先生が、戸をがらっと開けて、足音高く教室へ入ってこられて、子どもたちの緊張は、いっぺんに切れてしまった」というようなことです。お話を耳で聞くには、静かさが不可欠であることを、学校の先生方には、特に知ってもらいたいと思います。
 A部屋の中はすこし暗めのほうがいいこと。ただし、部屋を真っ暗にすると、子どもたちは、暗いことに反応して、お話はどこかへすっとんでしまうので注意しましょう。
 B身振り、手振り、声色はごく自然な範囲にとどめること。素人なのだから、俳優や、芸人の真似をする必要は、まったくないのです。しかし心を込めて語ってやることが必要なのです。これは、語り手の方の問題ですが、先生方が、語り手の良し、悪しを見分けるときの、大切な着眼点です。
 Cお話は一言一句、きちんと覚える必要がある。これも語り手の方の間題です。
 こうしてみてくると、伝承的な語りの場から、私たちが受け取るべき伝承の秘密はまだまだたくさんあると思います。



UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
BACK    NEXT




Web子どもと昔話 ││ 昔話の道しるべおはなしの小道
topへ