Web子どもと昔話 ││ 昔話の道しるべおはなしの小道


昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第30回 かしこいモリーの評価(2)
 イギリスの昔話「かしこいモリー」が子どもに人気があるのはなぜかという問題を前号に引き続き、昔話に即してみていきます。
 人食い巨人の家を抜け出したモリーたちは、一晩中森の中を走っていきます。夜が明けると、ちょうど御殿の前に出ました。これを「場所の一致」といいます。やはりテンポの速い展開をつくるのに貢献しています。
 モリーたちは御殿へ行って、王様に自分たちの運命を話します。現実には森に捨てられたような貧しい子どもが、いきなり王様と話せるわけがないのですが、ここにも昔話の語りの特徴がよく見られます。王様は王様としてもっているべぎ環境を捨てており、本来の環境から孤立していると言えます。
 モリーは王様から課題を三つ与えられます。第一の課題は、人食い巨人の枕の上にかかっている刀を取ってこい、第二は、枕の下にある財布を取ってこい、第三は、人食い巨人の指輪を取ってこいというものです。取ってくる物が、回を追うごとに人食い巨人の体に近づいています。ということは、だんだんと難しくなっているということです。音楽と同じクレッシェンドがあると言えます。昔話は音楽と非常に似た性質をもっているのです。
 モリーが王様からの三つの課題に立ち向かう場面は、三回ともほとんど同じ言葉で語られています。これは、子どもの受け止め方にマッチした語り口です。子どもは同じ絵本や、再話本を何回でも繰り返し読んでくれと言います。子どもは、もう知っているものと再会したがっているのです。
 よくみると、三回目が最も長く語られていて、しかも最も重要であることが分かります。簡単に言えば、タン、タン、タン、というリズムで、最後のタンにアクセントが置かれているということです。陸上競技の三段跳びもこのリズムです。音楽にもバーフォームという形があって、これと同じリズムをもっています。シューベルトの子守唄などはこの形でできているのです。現代のポップミュージックでも、たいへんよく使われる形です。
 私が言いたいのは、古今東西の人類が、こんなに多様な分野で愛用してきた形なのだから、昔語においても崩すべきではないということです。「かしこいモリー」はその形をきちんと保持しているから、子どもたちは聞いていて楽しいのです。心地よいのです。ここにもこの話の人気の秘密があると思います。
 人食い巨人の家を逃げ出したモリーは、髪の毛一本橋にさしかかります。モリーには渡れましたが、人食い巨人には渡れません。ここも子どもたちの興味をかき立てるところです。髪の毛は、自然にあるものとしては、最も細いと言えるでしょう。極端性です。それは誰でも気がつくことですが、さらに面白いのは、髪の毛がまるでピアノ線のように、きわめて頑丈なイメージで語られていることです。昔話には硬質化傾向があると言えます。
 「かしこいモリー」がもつ人気の原因のひとつは、昔話の独特な語り口にある、ということを解説してきました。
 次回には、もうひとつの原因を考えてみます。それは、昔話は子どもがさまざまな姿で成長していくプロセスを語るからだということです。

UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
BACK    NEXT




Web子どもと昔話 ││ 昔話の道しるべおはなしの小道
topへ