Web子どもと昔話 ││ 昔話の道しるべおはなしの小道


昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第24回 なまの声の魅力
  現代の語り手たちは、その経験から異口同音に「お話を語ってやれば、子どもたちは引き込まれて聞く」と言います。その理由について、前回は昔話の語り口が聞きやすくできているからであるということを書きました。今回は、実際に語る場のことから考えてみたいと思います。
 ひとが語るとき、必ず声を使います。その声自体が、実は大きな魅力をもっているということが、まず第一に重要な点です。美声のことを言っているのではありません。人問のなまの声がもつ魅力のことです。
 世の中には美しい音色を出す楽器はいろいろありますが、ひとに訴える力という点では、人間の声が最も強いのではないでしょうか。
 べートーヴェンの第九交響曲では、第一楽章、第二楽章、第三楽章とすばらしい音楽が続きます。そして第四楽章と進んでいって、あのバリトンがソロで「おお、友達よ」と歌い出すと、ゾクっとしてしまいます。人間のなまの声のもつ魔力と言ってもいいでしょう。
 子どもたちにとって、親と先生など、身近なおとながなまの声でお話を聞かせてくれたら、必ず引き込まれてしまうのです。
 成績をつけるためでなく、ただお話の世界を楽しませるために、先生がお話を読んでやったり、語ってやったりすることに努めていただきたいと思います。「静かにしなさい!」という言葉なしに、読み始めてはいかがでしょうか。そのうちに、いつのまにか引き込まれてくるものです。
 その意味では、昔話はよくできています。最初から誰が主人公であるかわかるし、序章なしにどんどん話が展開していくので、子どもがついてきやすいのです。その点、創作ものはたいてい長い序章の部分があったり、主人公がなかなかはっきりしないなど、子どもの気が外れる要素を含んでいることが多いのです。
 国語教育の一環としてでなく、昔の人たちが伝えてきた物語を楽しむ時間として、お話の時間を設定できないでしょラか。
 教室へ招かれて語った経験のある語り手たちから聞こえてくることとして、「子どもたちが引き込まれて、シーンとして聞いている最中に、先生がガラッと戸を開けて入ってきたので、集中が途切れてしまった」
「子どもたちはかなりよく聞いてくれたんだけど、先生が教卓で試験の点数つけをしていたので、それに気を取られている子がいたのが残念だった」ということがあります。逆に、「先生も子どもたちの中に入って一緒に話を聞いてくれたので、子どもたちも安心してよく聞けた」という声もあります。先生が一緒に聞いてくれたり、笑ったりしてくれると、子どもたちはとても嬉しいのです。そして安心して聞けます。
 先生たちが校務で忙しいのはよくわかりますが、少し配慮すれば子どもたちの聞く雰囲気をこわさないようにすることもできるし、子どもたちをお話の世界に誘ってやることもできるのです。
 そして、先生自身の声でお話を読み聞かせたり、語って聞かせたりしたら、子どもたちは一層喜ぶでしょう。
UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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