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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第21回 怖がることを習いに出かけた若者の話
  グリム童話集に「怖がることを習いに出かけた若者の話」というおもしろい話があります。
 怖いということを感じたことのない若者が、怖いことを教えてくれようとした教会管理人に大怪我をさせたため、親に勘当される。「怖いってなんだろう」と言いながら旅に出た若者に、いろいろな人が教えてくれるが、若者はちっとも怖がらない。ある王女が城に呪い閉じ込められていて、その呪いを解くためには、その城の中で、三夜、荒れ狂う幽霊の怖さに耐えなければならない。父王は、娘を呪いから解放した者を婿にすると告示する。若者は、幽霊がどんなに荒れ狂っても怖いと思わない。三夜、平気で過ごして呪いを解き、王女と結婚する。王女は、結婚しても「怖いってなんだろう」と言う夫が気に入らない。ある晩、寝ている夫の掛け布団をはいで、バケツ一杯の小
魚をぶちまける。小魚がベッド一面にピチピチはねまわると、夫は「怖い、怖い」と叫んだ、という話。
 私は「怖がることを習いに出かける」という発想がおもしろいと思います。考えてみれば、人生を歩み始めた子どもや若者は、みんな肺がることを習いに出かけているのではないでしょうか。初めて小学校に入る時、子どもは嬉しさや好奇心とともに怖さも感じています。それをなんとか乗り越えて入学してみると、そこで友達と出会ったり、今まで知らなかった楽しいことに出会ったりして、人生を広げていくわけです。
 おとなになってからでも実は同じで、例えば外国旅行に出る時、楽しい期待と同時に怖さも少し感じるということは、誰でも経験していることです。
 少年少女たちの行動をみていると、結果としては悪いことになってしまったことでも、彼らの動機としては、怖さを習いに出かけたに過ぎないということが多々あると思います。
 結果として悪いことであれば、悪いということを知らしめることは必要だと思います。しかし、動機としては怖さを習いに出かけたのだということは、わかってやることが大切なのではないでしょうか。特に、思春期の子どもたちは、おとなと競争してみたい、おとなに挑戦してみたいという気持ちをもっています。だから、どこまでやれば悪いことになるのか、どこまでなら悪いことがみつからないのか、試してみたいと思っています。
 そういう気持ちでやったことを、ただ叱るのではなく、怖さを習いに出かけたのだという動機を理解してやれば、子どもはその人にどんなに信頼感を持つことでしょう。昔語は、たくさんの子育てをしてきた人たちが語り伝えてきたので、こんな微妙な思春期の心のことも、気づかせてくれるのです。


UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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