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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第2回 口伝えの昔話がもつ文法

 昔話が時間に乗った文芸であることは、前回述べました。したがって、活字で印刷された、目で読むための文芸とは異なる文法をもっているのです。このシリーズでは、いくつかの独特な文法について、実例をあげて述べていきます。実例としては、主としてグリム童話集の「白雪姫」を取り上げます。ここで全文を引用することはできないので、私が訳した『完訳グリム童話』全二巻(ぎょうせい刊)を読んでみてください。


■昔話は主人公や敵、大道具、小道具を孤立的に語る

 白雪姫は女王の命令を受けた狩人に、森の中へ連れていかれます。殺されるのは免れましたが、一人で森の中を逃げていきます。たった一人走る白雪姫。聞き手は、たった一人であるために、はっきりと頭の中にイメージをつくることができます。
 こびとの小屋も一軒です。隣近所のことは何も語られていません。孤立した家だったのでしょう。七人のこびとも孤立して暮らしているようです。白雪姫がまだ生きていることを知って、行商人に変装して来る女王も、一人です。
 昔話は、耳で聞いてはっきりイメージできるように、主人公も敵も大道具・小道具も孤立的に語ることを好みます。創作の文学と大変異なるところです。
 例は「白雪姫」以外にも、いくらでも挙げることができます。
 「いばら姫」は一人っ子です。そして、あの城の塔の上の方にある小部屋は孤立的な場所です。そこにいる老婆も一人です。このように語ることによって、いばら姫が眠りにおちる場面が、はっきりと聞き手の脳裡に刻み込まれるのです。
 日本の昔話も、同じ語り方をしています。一寸法師は一人っ子です。おわんの舟に乗って出かけるときも一人です。浦島太郎も一人で亀の背に乗って出かけます。龍宮の乙姫さまには、たいやひらめの舞い踊りはあるものの、両親も姉妹もいません。村へ帰った浦島太郎は、特に孤立性がはっきりしています。
 孤立性は、一人で登場するところだけに現れているのではありません。主人公が本来もっているはずの環境から孤立している、というところにも現れています。白雪姫を殺しに来る女王は、本来女王として果たすべき公務があったでしょうに、それは全くしていません。白雪姫を殺すことだけに専念しています。いばら姫を刺す紡錘は、本来のつむぐ仕事はしていなくて、姫を刺して眠らせることだけに働いています。
 このように昔話は、独特な語り口をもっています。そういう語り口でもって昔話は独特のファンタジーの世界をつくっているのです。
 このシリーズでは、毎回、実例を挙げながら昔話の文法を解釈していきましょう。

UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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