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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第18回 子どもの心を知り尽くした昔話絵本
 おじいさんは、一人ではかぶが抜けないので、おばあさんを呼びに行きます。ここからさらに、まご、犬、猫、ねずみと応援が増えていきます。このとき、「それでもかぶはぬけません。おばあさんはまごをよんできました」という言葉が、登場者の名が交代するだけでくり返されています。
 「同じ場面は同じ言葉で語る」という昔話の法則が見事に実現されていることがわかります。
 登場する応援者たちの大きさをみると、次第に小さくなっていくことがわかります。見事なディミニエンド(またはディクレッシェンドともいいます)です。音楽と同じ性質をもっているのです。
 以前にとりあげたウクライナの昔話「てぶくろ」では、ねずみから始まって、かえる、うさぎ、きつね、おおかみ、いのしし、くまとクレッシェンドしていました。ノルウェーの昔話「三匹のやぎのがらがらどん」では、一番小さいやぎから出発していくクレッシェンドでした。いずれも音楽の場合と同じく、きれいに揃った漸増、漸減です。
 昔語はこのように整った形を好むのですが、それは、昔話の聞き手である子どもたちの欲求に応えた形なのです。子どもは一の次に二が来たら、その次には三が来るだろうと期待します。その次には四が。このような心の動きはアンティシペーションとよばれるもので、子どもの世界を把握する仕方の基本的パターンです。この心の働きが、子どもの心や空想力を育てるのです。昔語を聞かせることが、子どもの想像力を育てると言われるゆえんの一つはここにあります。
 この絵本では、まご、犬、猫、ねずみと応援者が登場してくるのですが、画面にはそれ以外の者はまったく描かれていません。昔話の語りの言葉どおりなのです。佐藤忠良は昔話を忠実に絵にしたと賞賛されていいと思います。多くの絵本が、昔話が語っていない者や物を描いてしまっているからです。猫が加勢してもかぶは抜けません。そこで猫はねずみを呼びに行きます。この組み合わせば予想外で、それゆえに効果的です。しかし、それ以上におもしろいのは、今までおじいさん、おばあさん、犬、猫と力を合わせても抜けなかったかぶが、最小のねずみが加わることによって抜けたという点です。小さいねずみが、これまでの全応援者の力と拮抗していたと言えます。小さいけれど全体の大部分に匹敵する効果をもつという「量のコントラスト」を示していることがわかります。
 最後にかぶは抜けました。子どもは万歳できます。しかも、それが最小のねずみの決定打によって達成できたということは、小さい子どもにとって誇らしいことです。こうして昔話絵本は、すみずみに至るまで子どもの心を楽しませ、子どもに生きていく喜びを与えているのです。

UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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