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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第17回 絵が語る昔話の醍醐味
  ウクライナの昔話「おおきなかぶ」は、幼い子にわかりやすい話なので、いくつもの出版社から絵本が出版されています。これまで書いてきたような昔語の語りの法則という観点からみると、そのなかで最もすぐれているのは、彫刻家・佐藤忠良の絵、内田莉渉子による再話の「おおきなかぶ」(福音館書店)だと思います。昔話の法則に照らしてみてみましょう。
 最初の場面、「おじいさんがかぶをうえました。……おおきなおおきなかぶになれ」。ここではまず文章が簡潔です。このおじいさんの日常生活などまったく語られていません。それに呼応して、絵も必要なものだけを描いています。おじいさんは一人、家も一軒、かぶも一つだけ。つまり、昔語の好む「孤立的に語る」という性質がよく出ているのです。
 かぶを植えたのは畑だろうと隣にトマトやじゃがいもを描いたら、それはもう日常的な場面になってしまいます。これから始まる超合理的な物語にはこういう抽象化された画面がふさわしいのです。と言っても、線と点だけで描いた抽象画ではありません。おじいさんも家もかぶも、それ自体としては写実的に描かれています。写実的に描かれた三点だけで画面をつくることによって、抽象的な画面に仕立てているのです。
 第二場面では突然大きなかぶになっています。これも昔話の法則にぴたり叶っています。つまり「昔話では形態の変化は一瞬にして起きる」のです。グリム童話「蛙の王さま」の最後の場面、王女が蛙を壁に投げつけると、蛙は一瞬にして王子に変身します。日本の昔話でも、子どもの成長について「茶わんで食わせれば茶わん分だけ、おわんで食わせればおわん分だけ大きくなった」と語ります。継続的に大きくなるのではないのです。
 第三場面、「おじいさんはかぶをぬこうとしました。うんとこしょ、どっこいしょ。ところがかぶはぬけません」。佐藤忠良の絵は太いかぶの葉が大きくしなっていて、大変ダイナミックです。絵の力強さを十分味わわせてくれます。抜こうとする力と、大きくしなりながらも抜けないかぶ、この力の拮抗がストーリーを進める力になります。かぶがどっしりと土に根をおろしていることが絵から感じられます。
 絵は本来、たった一枚でも見る人に感銘を与える力をもっています。ルノアール、セザンヌたちの絵は皆一枚でも力をもっているのです。そういう力をもった絵によって絵本を構成すること、それが絵本の本当の意義だと思うのです。この本はそれを実現しています。

 
 『おおきなかぶ』
 
再話 A・トルストイ
 絵 佐藤忠良
 
訳 内田莉莎子
 
福音館書店 780円
UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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