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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第15回 単純な語り口が子どもを惹きつける
 「てぶくろ」はウクライナの昔話です。ラチョフという人が絵と文を書いています。この絵本は子どもに大変人気があり、とても広く読まれています。劇にして、子どもが動物になっててぶくろの中に入って楽しむこともあります。
 この絵本が、なぜこんなに子どもに好かれるのか、その秘密を昔話の語り口という角度からみると、昔語の文法どおりにできていることが分かります。
 まず、第一画面。おじいさんがてぶくろを片方、雪の中に落として行ってしまいます。絵も、てぶくろがぽつんと一つ落ちているところを描いています。少し寂しい感じがします。この場面からして、すでに昔話の好む「孤立性」をはっきり示しています。これによって、聞き手、読み手の頭の中に、主人公がくっきり印象づけられるのです。
 しかもこのてぶくろは、おじいさんに落として行かれてしまうのです。持ち主がいなくなります。昔話がしばしばその冒頭でもっている「欠如」があります。昔話はその「欠如」を充足させるためにストーリーが展開していきます。
 幼い聞き手や読み手は、「欠如」がどう充足されていくか、そこに惹かれるわけです。
 第二画面。ねずみがやってきて、「ここでくらすことにするわ」と言って、てぶくろに入ります。それから、かえる、うさぎ、きつね、おおかみ、いのしし、くまが順にやってくるのですが、大きさが次第に大きくなっていくことが分かります。音楽でいうクレッシェンドと同じです。音話は本来口伝えされてきたために、時間に乗った文芸です。その意味で、音楽と似た性格をもっています。この絵本でもそれが見事に実現されています。
 第三画面。「そこへかえるがぴょんぴょんはねてきました。『だれ、てぶくろにすんでいるのは?』『くいしんぽねずみ。あなたは?』『ぴょんぴょんがえるよ。わたしもいれて』『どうぞ』」。
 このやりとりが、この後、新しい登場者が現れるたびに、ほとんど同じ言葉で繰り返されていきます。変わるのは、登場してくる動物の名が加わっていくところだけです。おとながこれを読めば「なんと単純な」と思うかもしれません。「退屈だ」と思う人もいるでしょう。ところが、幼い子にはこれがいいのです。子どもは、同じ場面は同じ言葉で言ってもらってはじめて安心できるのです。満足します。
 これも昔話の大切な文法です。「同じ場面は同じ言葉で語る」。この絵本はそれを見事に実現しているのです。こういう語り口は創作文学とは逆です。創作文学では、同じ場面が出てきたとき、作者が同じ言葉で書いたら「表現力に乏しい」と、一言で落とされてしまうでしょう。



 『てぶくろ』
 
絵 エウゲーニー・M・ラチョフ
 
訳 うちだりさこ
 
福音館書店 840円
 
UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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