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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第14回 生きることへのメッセージを読みとろう
  前回、ノルウェーの昔話の絵本「三びきのやぎのがらがらどん」が子どもたちに好かれる理由を、語りの法則という側面から考えてみました。
 ところが、この絵本をめぐっては、「あれは仲間を敵に売る話だから、教育的によくない」という意見があるそうなので、今回はその問題を考えてみます。
 問題にされるのは、一ぴき目と二ひき目のやぎが、トロルに「おまえを食べちゃうぞ」と言われたときに、「ああ、どうか食べないでください。あとからくるがらがらどんは、ぼくよりずっと大きいですよ」と言って、橋を渡って行ってしまうところです。
 ノルウェーは寒い国で、夏の間に太陽にたくさんあたり、太陽を浴びた草を食べておかないと、冬を生きのびられません。人間も同じです。したがって、この橋は引き返すことのできない橋です。しかも一本しかありません(孤立性)。
 一本しかない橋の直下にトロルがいます。トロルと戦ったら、小さいやぎだから負けるのは明白です。橋を引き返すことはできません。こういう極限状況の中で、小さいやぎはなんとか生きのびようとして考えたのです。
 そのとき、「そうだ、兄ちゃんがなんとかやってくれるだろう」と考えるのは、ごく自然なことではないでしょうか。親のいない、兄弟だけのとき、何か危険が迫ってきたら、下の子は上の子を頼りにするでしょう。上の子は下の子を守ろうとするでしょう。それは兄弟としてごく自然なことです。しかもよいことです。
 それなのに、「仲間を敵に売った」と非難されたら、下の子はどうしたらよかったのでしょうか。引き返したら冬を生きのびられないのです。つまり、死ぬことです。トロルと戦えと言うのですか?トロルと戦ったら負けて死ぬことになります。
 小さい子が、なんとかして生きのびようと思って考え出したことを、しかも兄弟として自然なことを、「仲間を敵に売るからけしからん」と言われたら、その子はトロルと戦って死ぬよりほかに道はないではありませんか。それは「死ね」と言うに等しいのです。
 今、日本では、子どもをめぐって暗い事件が相次いでいます。こういうとき、おとなは子どもに向かって、「絶対に死んではいけない。生きろ」という強いメッセージを、常に常に発しなければいけないと思うのです。
 この絵本の最初の場面は、やぎの目の前に一本橋があって、その直下にトロルがいます。橋は一本ですが、考えてみれば人間の一生も一本の橋です。人生は引き返すことはできません。そして困難が生じるとすれば、それは人生のまっただ中に生じるのです。人間はそれを突破しなければなりません。この場面は、これから人生に出ていく若者たちが目の前に見ている場面だと思うのです。昔話は深いメッセージを発していると思います。
 
UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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