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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第11回 子どもは物語を生の声で聞きたがっている
 子どもはもう昔話なんか聞かない、と思われているふしがあります。テレビやゲームの方が好きで、昔話なんか古くさくてだめだと思われているようです。
 ところが、おとなが生の声で物語を語ってやると、引き込まれて聞くのです。
 今、日本では農村のいろり端で年寄りが孫に毎日語ってやるという習慣はなくなりました。それに反比例して、今では本からおはなしを憶えて語るおとなが全国的に増えています。私はこれを「現代の語り手」と呼んでいます。
 現代の語り手たちは、家庭文庫や図書館、児童館、幼稚園、保育園などで、子どもたちに「素ばなし」をしています。「素うどん」などと同じに、何も付け足さない語りです。ことばだけで物語を語るのです。
 耳だけでおはなしを聞くことに慣れていない子は、はじめのうち落ち着いて聞けないのですが、聞き慣れてくると、引き込まれて聞くものです。
 近頃では学校に呼ばれて、昼休みや空き時間に語るケースも多くなりました。そういう現代の語り手たちが、私に学校での子どもの様子を報告してくれます。
 ある語り手おばさん。はじめて四年生のクラスに語りに行った時には、クラスの実力者らしい体の大きな男の子が、「くそばばあ」と言って、わざと目立つ行動をとり、仲間を引きつれて出ていった。ところが、二回目にも来ていた。声をかけたら大声をあげて逃げて行った。三回目には「おばさん、荷物持ってやる」と言って迎えてくれた。四回目にはおばさんの真正面にすわって、じっと聞き入った。それからは、さわがしくする子がいると、その子が「うるさい!」と言って静かにさせるようになったというのです。
 また、ある語り手おばさん。小学校で語ることになって行くと、先生が、「うちのクラスはさわがしいから」と心配していらした。語りはじめのうちは、ざわざわしていたが、次第に聞き入りはじめ、とうとう、クラス中シーンとなっておはなしに聞き入った。終わって職員室に帰る途中、先生が「うちのクラスがあんなに静かに聞いたのははじめてです」と言って、不思議がられたというのです。
 それは、生の声のもつ魔力と物語のもつ魔力がひとつになるからできることなのだと思います。特に昔話は代々、口で伝えられてきたために、不思議な力をもっています。この連載で書いてきたような耳で聞きやすい文体で。人間が生きるとはどういうことか、生命はどうやって成り立っているか、といった根本的な間題を、おとぎばなしの形で語っています。それが、やんちゃ盛りの子どもの心をとらえるのでしょう。
 学校で「ワル」と一言われている子ほどよく聞く、と語り手たちは言っています。そこに、現代の教育を考えるひとつのヒントがあるように思うのです。
UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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