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昔話の道しるべ 小澤俊夫の昔話エッセイ GUIDEPOST FOR FOLKTALES

第1回 昔話の文法とメッセージ
 
 昔語は口伝えされてきたものであることは、誰でも知っています。口伝えということは、耳で聞かれてきた、ということです。耳で聞かれてきたということは、時間的文芸であるということです。時間に乗った文芸です。
 時間に乗ったということばを聞くと、音楽も時間に乗った芸術であることが思い起こされます。昔話は、実は音楽に似た性質をもっているのです。
 音楽では、作曲家は限られた時間の中で聞かれてわかり易いように、あるいは感銘を与えるように作曲しています。それは作曲技法と呼ばれています。作曲技法の研究は相当に進歩しています。
 昔話の場合でも、語り手は、限られた時間の中で聞き手にわかり易いように、そして物語としての感銘を与えられるように工夫して語っているのです。ただ、語り手自身としては工夫というより、自分が幼かった頃、祖父や祖母から聞いたとおりに語っていると思っています。それに、昔語の語り手は無数の無名の大人たちであったために、その語りの技法についての研究は、あまり進歩していませんでした。
 ところが、二〇世紀後半になって、一方では世界での昔話調査が進み、一方では文学理論に刺激されて、昔話の語りの技法の研究は大いに進歩しました。語りの法則あるいは昔語の文法の研究といってもいいでしょう。私も永年その研究を進めてきました。
 昔話の文法が樹立されてみると、これまで子ども向きに作られてきた昔語絵本や再話昔話には、その文法からはずれたものが多いことがわかってきました。私は、それは残念なことだと思います。なぜなら、昔話の文法というものは、地球上の民族が、長年かかって語り継いできた間に、いつのまにか磨きに磨かれてきたものだからです。それ自体が民族の文化財なのです。それをなるべくこわさないで次の世代に渡すことが、今の大人の責任だと思うのです。
 昔話は、そのような独特な文法にのっとって、ある種のメッセージを発信していると思います。そのメッセージとは、一つには子どもや若者が育つとはこういうことだよ、というメッセージです。子どもや若者がいろいろに変化しながら成長していく姿を語っているのです。
 そしてもう一つは、生命とはどうやって成り立っているか、ということについてのメッセージです。「三びきのこぶた」は、狼と豚の食うか食われるかの物語です。昔話は生命の厳しい現実を、おとぎ話の形にして、子どもに語っているのです。
 現代の日本にとって、この二つのメッセージはとても重要だと思います。この連載では、まず昔語の文法を実例によって解説します。その上に立って、昔話の発するメッセージについて読んでいただきたいと思っています。
UBBELOHDE:のらくらものの天国の話
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